英文速読能力を単調増加させるための練習法

序論

筆者は現役の高校生であり、英文学の専門家などではないことを先に断わっておく。今から示す「英文速読の訓練法」は、大学受験英語ーーもちろんこの訓練法は、普遍的であることを意識し考えられたものであるがーーにおける英文の速読能力向上を目的に練り上げた雛形である。今回、人様にわざわざ自作の拙い理論を発表しようと考えたのは、現高等学校教育や塾・予備校での「慣れ」のブラックボックス化に対し、「時間の限られる受験生がどのように立ち向かうべきなのか」の考察が、オープンソースに出回っていないことによる。つまり、本論では、語学に表現や語彙の知識が不要だとは言わないまでも、一対一対応な表現の暗記ではなく具体的な言語の一般性から「英文速読の“慣れ”」について考察をする。

精確に読む

この文を読む読者諸君は恐らく、筆者より英語に習熟しているであろうから、あえて「構造解釈」的な文章読解については、多くを言及しない。英文を精確にーー構造解釈的にーー読むことは、速読以前の言語活動の意思伝達という目的に最適な手法であることは、ここで改めて議論することもないと思う。英語というのは「文意が構造(SVOC)により定まる」という性質の強い言語であると筆者は考えている。文意は各単語の意味とその関係性により定まる。高等学校において「無生物主語構文」と言われる構文が好例で、得てしてこの無生物主語構文はSVOC文型をとり、「SによってOがCする《S→O(s')C(v')》」などといった「因果関係」を示す。このとき、因果関係を示すのは、SVOC文型という単語の位置づけの確定ーーここでは語意と構造は相互に作用しあうことには深く言及しないーーによって行われる。以上より、「英文を読む」こと、いや「英文の解釈がひとつに定まる」には、ある部分ではシステマティックに、また人間情緒的な「解釈」が必要なこと、非ネイティブの英語学習者は、英文という意味内容そのものに、文意を定めるための構造解釈を重ね合わせていることが伺えるのではないか。月並みな表現では、意識に上げないとしても、英文を読むときには構造的解釈を必要としているということになる。さて、次項ではこの構造解釈主義とその「無意識化」の必要性、無意識下された解釈「慣れ」について考察をしていく。解釈の一意性と、速読における習熟が互いに干渉し合い足を引っ張りあってしまう、という問題を解決する方策についても記す。

早く精確に読む

さて、英文を読む上での“早さ”とはどのようなものだろうか。単位時間当たりに目を通せる単語の数、と定義してしまうのは容易だが、周知の通り、英文を読むという営みはそのような単調な様子では行われない。すなわち、脳内で英文を音読しながら読むに当たって、ネイティブ的な文章読解のペースを目的とする場合、各々の単語に抑揚があり、一単語にかける読解時間は一様ではないということである。

(例:Never I've seenーーー)

さて、おそらく地球上で最も早く英文を読めるのはネイティブスピーカーであろうが、彼らにはどんな特別な能力があるのだろうか。ここはひとつ、日本語のネイティブスピーカーである筆者が、何故日本語を早く読めるのかについて解説しよう。まず初めに、筆者は「早く読もう」などと意識して文章を読むことはほとんどない。それでいて僕は世界の非ネイティブの日本語学習者よりは、早く読み書きができるし、それでいて彼らよりも精確だ。そう、ここには序論で触れたようなブラックボックス化が起こっている。つまり、早く読み書きができる人間というのは、文法や構文などを無意識的に処理し、いや「意識に上げない」ために、早く読み書きができるということだ。読者の多くも経験するように、英文を構造的に解釈し、SVOCを全文に振っている限りは、その文を早く読むことはできない。ただ、ここで間違うべきでないことは、文法は明文化された「ネイティブ達の無意識」であり、決して文法を解釈に持ち込まないことが、英文速読を可能にしているわけではないことだ。ともすれば、非ネイティブの英語学習者である我々が、英文を速読せんとするとすれば、目指すことは英文法の無意識化である。確かにこれ自体はありきたりの帰結かもしれないが「如何に無意識化するか」は非常に難しい問題である。何故なら、我々が無意識化“しよう”とする限り、それは意識上にあるからだ。「意識しないこと」に注力した瞬間から、言語は文法を離れ、一意性と意思伝達の機能を失うだろう。

“抑揚”と構造

上の議論において僕は「抑揚」について触れた。ここでいう抑揚は、ネイティブが無意識下で意識するところの、文中の単語中での対象の重み付けであり、それは文法的、あるいは意味において重要な意味を持つ。また文意は構造と語意の相互関係により定まるという話を覚えているだろうか。ここで私が提案したいのは、従来の英文解釈が行うような《構造→文意》のような“解釈方法”ではなく、意味から構造を“予想”するという、発想の転換である。これは表面化されるところの、所謂「予告のthe」に近い概念意識である。つまるところ、ここでの目標は「英文を左から右へと解釈」しつつ「その解釈の随時」に「意味から構造を予想」することである。

何故“早い”のか

以下のSVOCの羅列をある英文の一般形と考えた時、最も解釈に時間がかかるのはどれだろうか。

  • SVM.
  • SVO.
  • SVC.
  • SVOC.
  • SVOO.
  • SMMVMMOMCMM.

筆者ならば、最も解釈に時間がかかるのは《SMMVMMOMCMM》である。修飾語句が入り組んでおり、それらの関係性確定に時間がかかるためだ。そしてこの例は、少々大袈裟ながらも、日頃解釈に時間がかかる文章の特徴を捉えている。せいぜい五種類の文型とその倒置,移動系に分類できる英文達の多様性を支え、かつ解釈に時間を必要とさせるのは、他でもない修飾語句である。(もちろん実際には他の要素も複雑に絡んでくるが.......)

具体的な訓練方法の提案

以上をまとめると「構造解釈の無意識化」こそ、英文速読におけるキーポイントであり、それには「抑揚」の意識が必要である、となる。これを達成するための方法は簡単である。結局のところ「英文に慣れる」必要はある、故にまず英文を読む。すると、解釈を続ける中で表す“意味の都合上、後に修飾語句を導く”語句が現れる。その語句は、後ろから長々と修飾すべき語句、すなわち「包括的」「抽象的」意味を持つ語句である。例えば「関係性:relationship“s”」「事実:(the)fact」などそうだ。そして、これを無意識的に意識するために、まずは意識化する。抽象語句が登場する度にメモをとり、注目すべき語句としてノートにでもまとめるのだ。そして、再びその語が現れれば、半ば短絡的に、その後ろに連なるのは修飾語句のカタマリであると決めつけて、予想通りであったら「しめしめ」として前の名詞の詳説として解釈をすればよい。あとは、たびたびメモした一覧を眺めて、次に一覧にある単語が現れたときには“VIP待遇”をできるよう、少々身構えておくのだ。メモした単語の数が増えれば増えるほど、構造解釈のカンは鋭くなる。単語集をただの羅列としてみるのではなく、抑揚のある“リズム”のようにして捉えること。これが、複雑な構造を軽快に飛び跳ねながら解釈をする方法なのだ。

 

 

2019.6.8,22:20(リンクフリー)